走るのはこの人
東京渋谷駅前校30期生 村田 清弘
余命宣告を受けた後、2006年のホノルルマラソンに挑戦し、見事完走。
2007年度は多くの仲間、サポーターと共にゴールを目指します。
2006年12月10日。アラモアナBlvd。
『364日+1日』2
ホノルルマラソンスタート地点。エントリー数およそ30,000人。その中に車椅子のランナーがいて、両足義足のランナーがいて、背中に「I am Blind」と書かれた盲目のランナー(勿論伴走者はいますが)がいて。まだ暗闇の午前5時。スタートガンが鳴り、隣接するアラモアナ公園から花火が打ちあがり30,000人の大移動(誤解のないように申し上げておきますがトラブル・アクシデントを避けるために車椅子のランナーは5分前にスタートします)。
打ちあがる花火を見上げながらジョグペースで走り始めると街中のクリスマスイルミネーション。官庁街を抜けあっという間にカピオラニ通りからカラカウア通りへ。この辺りからやっと自分のペース走れる。やがて往路のダイヤモンドヘッド、レース前に「ダイヤモンドヘッドでサンライズが見たい」と柄にもなくロマンチックなことを考えていたら、この辺が初参加の愚かしさ、まだまだ暗い。そもそも狭い。僕なんか未舗装の沿道を走ったりしました。
ただペースは悪くない「いい調子かな?いけるかな?」人間、油断は禁物です。ホノルルの辛さはこれからでした。ハイウエイに入ったところでやっと太陽が。ところがここからぐんぐん気温が上がってきてあっという間に30℃。やっぱりサングラスは必需品でした。ここで本当に頼りになるのが13ヶ所あるエイドステーション(給水所)。水、スポーツドリンク、お馴染みのスポンジ。僕はレース前に二つだけ決めていたことがありました。一つは絶対走り続ける事。もう一つはエイドでは子供から受け取ろうという事。大人に混じって思い切り背伸びしてコップを差し出している子供から受け取ろう、きっと記憶に残ってくれるはずだ。そう決めていました。
蛇足ですがこのエイドステーション、これは勝手にできるものではなく、実はお金を出して権利を買っているんです(確か100$)。運営するのは友人、知人、縁故関係。つまり持ち出しで運営しているんです。これは言ってみれば公式エイドで、これ以外に沿道沿いの住民の方々が自主的にクッキーを焼いたり、カットフルーツを配ったり、と大活躍です。これが嬉しい。大皿にてんこ盛りになったクッキーを子供が両手で持ち上げて「Good job!」。僕もお世話になりました。美味しかったぁ!しっかりフルーツもいただきました。パイナップルってあんなに甘かったっけ?!
これは聞いた話しですが、かつてホノルルマラソンの最中にスコールがきてランナーがずぶ濡れになったことがあるそうです。其の時、沿道にお住まいのおばあちゃんが(もう日本では見なくなりましたが)ごみ出し用の黒いビニール袋を自宅から全部持ってきて、首と両腕の部分に切り込みを入れて、走ってくるランナー達に配り始めたそうです。それを見た近隣の方も同じように黒いビニール袋を持ち出してきてランナー達に配った。気が付くとおばあちゃんがずぶ濡れ。自分のことは忘れていたらしい。
ホノルルマラソンのボランティアの数は約10,000人と言われています。このボランティアのことを書き始めるとそれだけで容量オーバーしそうなので、次回以降小出しにします。勿体無いから。。。
ハワイ・カイを周回し復路のハイウエイへ。バンド演奏で盛り上げてくれるおじさん達がいれば、大学生のチアリーダー達がいて。高級住宅街のカハラを過ぎると終盤最大の難所、ダイヤモンドヘッドのアップヒル。「これが噂のダイヤモンドヘッドヒルか?!」キツイのは聞いていましたが、まさかこんなに・・・両手、両足がちぎれるかと思うほどのキツさ。青息吐息で登っていく人、すっかり諦めちゃって歩いている人。
そんな中。一人の車椅子のランナーが汗まみれで登っていく。思わず後ろから押したくなる。でもそれはNG。言葉で応援するしかない。
「Good Job!」
「You Can Do It!Come On!」
周囲のランナーが声を掛けていく。でも彼は辛くて顔をあげることもできない。そもそも。彼は後ろから押し上げてもらうことを望んでいたか?否、己の力のみでダイヤモンドヘッドを登りたかった、に違いない。あの紫外線に焼かれた首筋と汗まみれの背中を、僕は生涯忘れることはないと思う。
約30,000人がエントリーした世界最大級のレース。そこには約30,000通りのドラマがあると思います。どんな優れた作家にも書けないノンフィクションのドラマ。今のこの地球上、約64億人。そこにも同様に64億通りのドラマがある。人は誰もが永久欠番だと思います。
2007年12月9日。35thホノルルマラソン。一日のレースのために364日練習です。それはスタートラインで「あれをやっておけばよかった」「この練習もっとやっておけばよかった」などと思いたくないから。ホノルルマラソンを思いっきり楽しみたい、後悔しないように走りたい、笑顔でゴールしたいから。そのために364日、辛い練習の日々です。アラモアナスタートポイント。
AM5:00。
今年もホノルルに帰ります。
(終)