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余命宣告を受けているとは思えない程の、スピードと体力で村田さんがゴール。
4時間台でした。ゴールするなり、彼は私達の中にぐったりとなだれこみました。やはり、42.195キロの道のりは彼の身体にとって、非常に大きな負担になったのでしょう。両肩をスタッフが一生懸命支えます。
「座りますか?」
という声にも、
「座ったら立てなくなるから、大丈夫。」
と言いながら、彼は震える膝で、ずっと二本で立っていました。
福田さんが持って来てくれた大きなタオルが掛けられ、アイ・ディアの横断幕の下を村田さんが潜って行きます。疲れ切った身体と最高の笑顔が、やっと晴れかけたゴール地点での光の中で輝いていました。
フィニッシャーズティーシャツをもらいに行くにも、足元はどろどろにぬかるんでいる。その中をスタッフに支えられながら、ゆっくりと村田さんは歩いて行きます。自分でスピードを上げなくても良かったはずなのに、途中で歩いて来ることもできたはずなのに、村田さんは自ら自分の身体にスピードを上げ、それを自分に課しながら走り続けました。
1年間かけて彼はずっとランニングをしてきました。国内のマラソンにも出ていました。
その中で村田さんが言った一言は、
「あー、ホノルル終わっちゃったよー。楽しかったー。」
短い言葉ではありましたが、私達の心を強く打つ、そして完走した人が語れる最高の言葉を私達は感じました。
村田さんの後には、鈴木君が33キロ地点を通過したという連絡が入りました。
鈴木君は、10キロ地点では一番最後の通過だったものの、 そのペースをずっと守り抜いたようです。 私達は鈴木君の姿を追いました。
鈴木君がダイヤモンドヘッドを登り切り、最後の500メートル地点も通過、スタートした時の笑顔と同じ笑顔で、 鈴木君はゴール。そしてその後、まるで魂が抜けた様に無表情になり、ゆっくりした足取りで私達の所にやって来ました。今やもう心の友となった村田さんとがっちり握手。私達スタッフも心から絶賛。ゴール直後の鈴木君の笑顔を日本にいる彼女に送ろうと写メールで激写。きっとここにいなくても心から応援してくれる人達がたくさんいる。だから走り切れたんだと思う。
「鈴木君どうだった?」
「いやぁ僕、絶対に皆がいなかったら辞めてましたよ。だって面倒臭いもん。」
と、彼らしいコメント。
でも、皆がいたから、帰って来れた。皆がいたから、救急車に乗らずに皆の元に帰れると思った。マラソンを走り切るというのは、もしかしたらそういうものなのかも知れないと思いました。帰りたい場所があるから走れる、鈴木君は素直に、アスリートらしからぬコメントで、そして、最高の笑顔で語ってくれました。